第45回名作コンテスト入賞作品

去り行く歳の鼠と新な歳の丑を現実にはあり得ない構図で描いた作品。夕焼けなのか夢の中なのか、とても不思議な空間の中から、ぬうっと出てきた牛とねずみ若干威嚇態勢のねずみに対しキョトンとした牛の表情がそれぞれの性格をうかがい知る事のできる何ともユーモラスで素晴らしい作品である。それにしてもこの立体感など珊瑚抹を使うという新なジャンルでここまでの表現をする作者の実力には拍手を送りたい。

一見非常にシンプルで今までにもよくある作品に見えるが考えられない程に緻密で繊細な技が駆使された作品。白珊瑚の単一の色彩に彫り込む事により陰影をつけ大日如来の表情まで見事に表現し、まるで生きているかの様な印象を与えている。圧巻は如来後ろの光背。微妙な曲線と緻密で精巧な技で彫られた素晴らしいものとなっている。作者のこの作品への強い想いを感じる事ができる。

この小さな個体に凄まじい程の技法や素材を盛り込んで完成された秀作である。勿論、技術力だけではなくその表現力や作品の持つ力強さなど、じっくり観ていると作品の方からのアウトプットの強さに圧倒されてしまう。全体的には洒落っ気たっぷりで遊び心に満ち溢れた楽しいユーモア作品。珊瑚の持つメリット・デメリットというものを全てプラス方向に生かして創られた力作である。

見ているだけで心が温まる穏やかな春を感じさせる作品。花と蝶といえば人間の心をうきうき弾ませるモチーフの代名詞のひとつ。そのふたつを見事に融合した力作である。全体（側面含め）に彫を入れ大変丹念、丁寧につくられているが、その技術力を誇示するのではなく作者の穏やかな年を願う気持ちが感じられる温かく優しい作品である。

欲しくてたまらないにぎり寿司を、テーブルに前足を置き上目遣いにじっと見る白猫が忠実に表現されていて実に可愛い。にぎり寿司においては、珊瑚の特色でもある多様な色を使用し、まるで本物のにぎり寿司であるような素晴らしい出来ばえである。

作品を審査する楽しみは、思いがけない出会いへの期待でもある。この「Sea Cow」は、「一体何だこれは」という思いが先にたった。しかし、何か生き物らしいものが赤サンゴの光沢を放ち、題名を見て「ああ、海牛なのか」と判ると、クスッと笑いがこみ上げてきた。ツノに仕立てた小枝も面白く、実にユニークな作品。海底を表現した桃珊瑚の枯木との対比もいい。また、しっぽのような足には、金粉でおしゃれまでしている。

ますます貴重になりつつあるアカサンゴの大玉（直径20mmの丸玉）が使われたペンダントだが、表情を楽しみながら裏表どちらも掛けられるように工夫されている。表面は真っ赤な珊瑚の色が見事である。そして、裏面は、3D-CADやデジタルジュエリー®を応用してプラチナ、ホワイトゴールド、イエローゴールド、ダイヤ等を各パーツごとに制作後、接合して、ヒトデのような星型をきらびやかに表現した優れた作品である。

デザイナーの思いが強く、各パーツは良いのだが、あれもこれもと加え過ぎ、まとまりに欠けてしまったのが残念。しかし、作品全体からは「祈り」を感じた。中でもモモイロサンゴを彫刻した女性のレリーフ部は素晴らしく、見る角度により違った表情が楽しめる。また、裏にはロケットが細工され、写真が入れられるようになっている。深海サンゴや真珠、オパール、アカサンゴに込められたそれぞれの思いを読み解きたい。

ひとことで「ジュエリー」と呼べる正統なデザインの指輪である。カボッションに研磨された深紅色のアカサンゴと、その輝きを引き立てる空間彫刻のようなプラチナパーツとダイヤモンド。今回の宝飾品の中では小さく見えるが、指を通し、このサンゴを見つめながら目を瞑ってみたい。題名のMagellan（マゼラン）のごとく、遥かな時間や空間に、より広い世界の探検にと導いてくれるだろう。珊瑚は生命のお守りでもある。

トンボ科アカネ属の中で、体色の赤いトンボを赤とんぼと総称する。作者は、トンボが瓢箪の先に止まった瞬間をとらえ、まとまりのある象徴的ディスプレーに仕上げている。しかも、トンボ部分だけをつまみ上げれば、アカサンゴ、シロチョウガイ、クロチョウガイ、ホワイト・ゴールド等を用いた繊細なブローチになっている。作品全体から見れば、確かに使用された宝石サンゴの量は僅かであるが、これもまた挑戦的佳品である。

黄色みを帯びたややうすくちの大きなモモイロサンゴからドロップ型を削り出し、デザイン的に上下逆転させている。その周りにはWG（ホワイト・ゴールド）等を用いて、蔓性の六弁花を丁寧に装飾。国際ジュエリーショーで女優やモデルに身に着けてもらいたいような秀作である。惜しむらくは、六弁花（テッセンか、クレマチス）の扱いにもっと生気があれば、夢のごとき桃源郷へ誘ってくれたかもしれない。

淡いピンクのボケサンゴを使用したリングとイヤリングのセットが非常に優しい色合いに仕上がっている。技術面においても、材料の性質をよく知り、きめ細やかに　細部まで手を抜くことなく仕上げてあり見ていると気持ちが安らいでくる作品である。